危険な関係 [映画・小説]

危険な関係  [Les  Liaisons Dangereuses]  

 書簡形式で書かれた「危険な関係」は1782年にフランスの作家(軍人でもあった)ピエール・

ショデルロ・ド・ラクロによって発表された。この小説は以降の恋愛小説の手本のような位置付けで今日に及んでいる。1789年に勃発するフランス革命の気運がパリを中心として迫っている世情の中、貴族間の恋愛沙汰だけをテーマにしたこの小説は一般民衆からしたら、「けしからん!!」

と言うことになるが、手紙に託された男女の心理の推移が推理小説にも劣らないスルルングな世界を展開している。

特に、原語のフランス語の原作に眼を通すと、当時のフランス貴族社会の言葉使いや、身分や年齢による言語表現の違い等が解り、興味深い。

物語は、20歳で未亡人になった美貌のメルトゥイユ侯爵夫人、かって彼女の愛人でもあったプレイボーイのヴァルモン子爵、子爵の遠縁で修道院育ちの貞淑なツールヴェル法院長夫人の3人と彼らを取り巻く数人の人物の相互の書簡で進んで行く。メルトゥイユ侯爵夫人が自身の嫉妬とヴァルモン子爵への復讐心から、ツールヴェル法院長夫人を誘惑させ、破滅に追い込んでいき、最終的には、子爵は決闘で死に、法院長夫人は精神を病み死を迎え、罠を仕掛けた侯爵夫人はそれが多くの人々の知るところとなり非難を浴び、逃亡先で天然痘で醜く変わりはてた姿のまま命を落とすという結末である。

この物語は、第2次世界大戦終戦以降、映画や舞台劇として世界中で取り上げられている。

フランスでは2度、ハリウッドでは3度映画化されているが、特に注目したいのは、2003年韓国で作られた映画「スキャンダル」と2013年中国で制作された映画「危険な関係」である。

「スキャンダル」は時代の設定を原作と同じ1780年代の朝鮮王朝貴族社会に置き換え、主人公のチョ夫人、プレイボーイのチョ・ウォン、遠縁のチョン・ヒヨンの三人の性格は、原作に忠実に設定している。言葉やビジュアルな違いを越え、この三人の心理を見事に表現している事と、18世紀後期の朝鮮の建物、調度品、衣装の美しさ、また、ラクロの原作が書簡集であることを踏まえ、当時交わされた、ハングル文字と 漢字による毛筆の美しい手紙の数々も登場するなど、映画として素晴らしい作品になっている。

また、2013年に公開された中国映画の「危険な関係」は1931年の上海と設定している。

第二次世界大戦がこれから始まろうとする爛熟した町であった上海を舞台に繰り広げられる恋愛劇は映画として充分に面白い。また、原作の主役三人が、それぞれ、モー・ジュ夫人を香港の女優

セシリア・チャンが、上海一の大金持ちのプレイボーイ シェ・イーファンを韓国の俳優 チャン・ドンゴン(彼自身が、中国語で演じている)が、貞淑な遠縁の夫人 ドゥ・フェンユーを中国の人気女優 チャン・ツィイー が演じている。この3人が表現する心の機微は見事で、映画ならではの、クローズアップの技法も加わって心理劇としての面白さも充分である。この中国版で特筆したいことは、原作ではヴァルモン子爵の伯母として多くの手紙を書いているロズモンド夫人を、イーファンの祖母ドゥ・ルイシェ夫人と置き換えて登場させていることである。中国の名女優のリサ・ルーが演じるこの役が作品に、より一層の厚みを加えている。

18世紀末にフランス人によって書かれたこの文学作品が、200年以上の年月を越え、アジアの映像作品としてよみがえっている奇跡を、アジア人の一人として興味深く、また、嬉しく思う。Kiki

 


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