テノールのスリル [オペラ]

Scara.jpgテノールが大好きです。
オペラの世界では、その声種によってある程度役柄が決められています。
オペラは総合芸術ですが、「音楽」が占める部分が大きく、ヴィジュアルな部分が無くても、登場人物のキャラクターが分かるように設定されています。但し、このように声種が限定され初めたのは、ベルカントオペラが確立した頃(18世紀末から19世紀初めにかけて)と言えましょう。女声はソプラノ、メゾソプラノ、アルト。  男声はテノール、バリトン、バス、が代表的です。声種によって、それぞれの役柄や、時には身分なども設定されます。ベルカントオペラ以前のバロック時代等は「カストラート」(少年時に去勢して声をボーイソプラノのまま残した男声歌手)と呼ばれる特殊な声種の持ち主がオペラの主役を務めたりしていました。この伝統は、現在「カウンターテノール」(すべて裏声ファルセットで歌唱する男声歌手)に受け継がれています。もちろん、彼らは、「去勢」などしていません。
パヴァロッティ・ドミンゴ・カレラスの3人のテノールが、1990年イタリアで行われた「ワールドカップサッカー大会」の開幕記念コンサートが、ローマの古代遺跡「カラカラ浴場遺跡」で行われました。この時から、限られたオペラファンだけでなく、世界中に、オペラ歌手、特にテノールの声と歌が、多くの人々を感動させるものだと認識されたのでは?と思います。テノールは、ドラマティックでスリリングでセクシーでもあります。
テノールの声種を大いに発展させたのは、ヴェルディと言われています。
もちろん、モーツアルトやロッシーニもテノールに重要な役を与えていますが、アンサンブル要員の要素も
あるように思います。ヴェルディや、彼に続くプッチーニは、メインキャストあるいはヒーローとして、テノールを起用していますし、現在でもこのイタリアオペラ2大巨匠のオペラにおけるテノールは、音楽もテクニックも
限界を越えることが要求され、すべてのテノールは挑戦し続けています。(ドイツオペラ、特にワブナーにおけるテノールの役は、イタリアオペラとはまた異なった位置付けと思います。ワグナーは常に、オーケストレーションの中での声の役割を要求しています。長時間の楽劇のテノールはスタミナとの勝負とも言えます)
各自の持ち声で、ある程度歌唱可能なバリトンや、バスと異なり、テノールは(誤解を招くかもしれませんが?)不自然な、あるいは超絶技巧とも言えるテクニックを身に付けなければなりません。高音を出す技術はフィギュアスケート男子の4回転ジャンプに匹敵する技術です。それを、コンスタントに歌唱する技術は様々な条件がそろっていないと不可能です。それは、持って生まれた声の素質、アスリートとに近い肉体、特に筋肉の精度(強さとしなやかさ)、精神力(失敗を恐れない勇気)、芸術的な欲求(音楽性),弛まぬ努力と根気強さ、明晰は頭脳(優れた記憶力)等です。
かつては、「テノール馬鹿」(大きくて、高い声を出す人間は頭が空っぽに違いない?と名付けられた?)と呼ばれた時代がありました。どっこいどうして、パヴァロッティもドミンゴも大変優れた頭脳の持ち主です。伝説ですが、パヴァロッティなどは、最初は楽譜が良く読めなかった?と言われてきました。しかし、彼は一度聞いた音楽は、すぐ覚えられてしまうのです。オペラはじめ、音楽家にとって、最終的には、暗記(暗譜)が求められます。もちろん、楽譜読解は必須ですが、楽譜から作曲者の精神、情熱、を感じ取り、加えてそれを芸術の高みまで行き着く魂は、演奏者に求められます。特に、声楽は、生身の人間の声を駆使してそれに近付こうとしています。そしてテノールは、予測をはるか超えた宇宙に連れて行ってくれるのです。
素晴らしくスリリングではありませんか?
今、お気に入りは、イタリアのテノール、Vittorio Grigoloです。

Vittorio1.jpg1977年生まれで今年42歳になりました。2015年に東京オペラシティーでピアノ伴奏によるリサイタルをしました。その前から、映像等で彼のことは
知っていました。しかし、生の彼の声は格別でした。録音では把握できない、声のヴォリューム、音色、息使い、全てが素敵で、心震えました。その後、ミラノスカラ座で、「ランメルモールのルチア」エドガルド、「ボエーム」ロドルフォ、「リゴレット」マントバ公爵を聞きました。スカラ座の伝統的なアコースティックな空間で、ヴィットリオの声は、隅々まで行き渡り、同じ時空に居られる幸せを感じました。この頃までのヴィットリオは、少々荒削りで、未だ少年っぽさが残る声でした。しかし、昨年12月3年ぶりで東京で今回はオーケストラ伴奏のリサイタルをしました。「どのような声になったか?」と期待と不安(テノールはある日突然墜落することがあります)で聞きに行きました。2015年~2018年までヴィットリオは、世界中のメインオペラハウスで歌い続けて
いました。レパートリーもどんどん広げています。12月のリサイタルの彼の声は、少年っぽさは影を潜めて
成熟した男の声になっていました。世界のフィールドで第一線で演奏することは、このように「洗練」されるものなのだ!と感心して帰途につきました。でも、以前聞いた、彼のある種スリリングな、少年っぽい声に懐かしさも感じたのも事実です。但し、Vittorio Grigolo は今が「旬」であることは確かです。Kiki

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